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理事長挨拶



一般社団法人 日本マススクリーニング学会
理事長
但馬 剛(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 研究所)


 日本マススクリーニング学会ウェブサイトへのご来訪ありがとうございます。当学会のテーマである「新生児マススクリーニング」は、生後すぐからの食事療法で精神発達遅延を予防できる「フェニルケトン尿症(phenylketonuria, PKU)」の最早期診断を目標として、1960年代から欧米諸国を中心に始められた取り組みです。1961年に米国のガスリー博士がスクリーニング検査法を確立するや、我が国でも食事療法のための「フェニルアラニン除去ミルク」開発が開始され、翌年には実用化されています。1967年よりPKUスクリーニングの試験研究を行う厚生科学研究班が発足し、1977年に発出された厚生省母子衛生課長通知によって、PKUをはじめとするアミノ酸代謝異常症4疾患とガラクトース血症を対象とする「先天性代謝異常等検査事業」すなわち公的母子保健事業としての新生児マススクリーニングが、全国で実施されることとなりました。この間、1973年に「代謝異常スクリーニング研究会」が発足し、1990年からは「日本マス・スクリーニング学会」へと発展改称して(*2015年より表記を「日本マススクリーニング学会」へ変更)現在に至っています。
 当学会は、現行の新生児マススクリーニング事業から得られる知見を明らかにするとともに、マススクリーニングによる障害発生予防を通じて母子保健の向上に貢献するべく、検査の精度管理や改良、新たな検査法の開発、対象疾患の拡充など、関連する様々な課題に取り組んでいます。このような背景から当学会は、対象疾患領域を専門とする医師・医学研究者と、検査の実務や研究開発を担う技術者が緊密に連携する、独特な運営体制を構築しています。これを中核に、産科・助産・看護・臨床遺伝・治療開発・行政・患者家族会など、多様な立場からの力を集めて、新生児マススクリーニングをより良いものにしていくことを目指しています。
 これまでの最も大きな発展として、「タンデムマス・スクリーニング」による対象疾患の拡充が挙げられます。大量かつ高感度な検体分析を可能とする質量分析機器(タンデムマススペクトロメーター)を用いることで、従来のアミノ酸代謝異常症に加えて、尿素サイクル異常症・有機酸代謝異常症・脂肪酸代謝異常症に分類される疾患群のスクリーニングが可能になります。我が国では1997年から試験研究が始まり、2005年からは厚生労働科学研究課題にも採択されて、2013年から全国の自治体事業へ順次導入されました。これによって2025年現在、先天代謝異常症18疾患+内分泌異常2疾患(先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎過形成症)が検査対象となっています。
 近年は更に、従来とは全く異なる疾患領域でも、新たな検査法や治療法の実用化によって、新生児マススクリーニング対象への追加が期待されています。社会的要請の高まりを背景に、2019年度からは日本医療研究開発機構(AMED)、2023年度からはこども家庭科学研究の課題として、ライソゾーム病・副腎白質ジストロフィー・原発性免疫不全症・脊髄性筋萎縮症・先天性サイトメガロウイルス感染症・胆汁うっ滞性疾患などの新生児マススクリーニングを社会実装するための研究が進められています。これら様々な疾患領域を問わず、公的事業化に当たって充足すべき要件には多くの共通点があり、当学会の経験は、新規疾患スクリーニングを推進する専門家にも大いに役立つはずです。また当学会は、新規検査の実務を担うことになる、現行スクリーニング検査機関の技術者が運営する「技術部会」を擁しており、多様な疾患領域の専門学会をつなぐ「ハブ」として、新生児マススクリーニング全体の品質担保・向上に尽力していく所存です。

2025年10月

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